まめやについて

　伊勢市宮後。近鉄伊勢市駅から歩いて五分。
暖簾をくぐると、店内には、「うどん六銭」と書かれた
昭和初期のおしながきが飾られているのを目にします。
　時代はさらに遡って、時は大正十二年
「伊勢うどんのまめや」は創業しました。
太くやわらかな麺に、たまり醤油の黒いつゆを少量まとわせる一椀は
江戸の昔から参宮の人々をいたわってきた伊勢の味。
　店内に座して、瞳を閉じると、伊勢の街の二十年に一度の式年遷宮のざわめき、
御木曳などの行事の活気が瞼の向こうへ通り過ぎてゆきます。
　幾度もの遷宮を見送り迎えてきた老舗の釜は、
湯気の向こうで変わらぬ香りを立ちのぼらせる。
代々の秘伝だれと自家製麺が、参拝前の腹を温め、帰路の心をほどく
——まめやの一杯は、伊勢の時間を結ぶやさしい記憶の味です。